ディープラーニング検定のホームページにG検定の例題が掲載されていますが、残念ながら解答は未掲載となっています。本ブログでは、私の考えた解答案と解説を4回に渡って書いていきます。これらの例題は、人工知能に関する幅広い知識が問われていて大変勉強になりました。
今回は全4回のうちの1回目で、「人工知能をめぐる動向」と「人工知能分野の問題」という項目の計4つの問題を扱います。
この記事では、2021年2月14日時点で掲載されている例題を引用し、解答例と解説を記載しています。今後公式サイト記載の例題は変更になる可能性もありますのでご注意ください。
また、回答例や解説等含めた本記事の記載内容は当ブログ筆者の見解によるもので、間違いを含んでいる可能性があります。そのようなことが無いように努力してはおりますが、万が一誤りがありましたら大変申し訳ありません。
ディープラーニング G検定試験とは
機械学習、ディープラーニングには資格、検定があります。日本ディープラーニング協会が認定、運用しているディープラーニングに関する資格と検定です。
日本ディープラーニング協会が運用する資格試験にはG検定とE資格があり、そのうちのG検定は次のように説明されています。
ディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決定して、事業活用する能力や知識を有しているかを検定する。
G検定とは – 一般社団法人日本ディープラーニング協会【公式】
今回は、日本ディープラーニング協会の公式サイトに掲載されているG検定の例題のうちの最初の4問を解き、解説します。難易度や合格の難しさの雰囲気把握に参考になれば幸いです。
G検定の例題:人工知能をめぐる動向(2問)
まずは「人工知能をめぐる動向」の2問です。
人工知能をめぐる動向 1問目
Q. 以下の文章を読み、空欄に最もよく当てはまる選択肢をそれぞれ1つずつ選べ。
第一次AIブームは1950年台に起こった。この頃に人工知能と呼ばれたプログラムは(ア)をもとに問題を解いていた。特に、1996年にIBMが開発した(イ)は、チェスの世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフに勝利したことで有名である。しかし、ルールや設定が決まりきった迷路やパズルゲームなどの(ウ)と呼ばれる問題しか解けないという課題があったために、研究は下火になった。
(ア)
1. 知識表現
2. 表現学習
3. 機械学習
4. 探索・推論(イ)
1. Deep Blue
2. Bonkras
3. Ponanza
4. Sharp(ウ)
G検定の例題 – 一般社団法人日本ディープラーニング協会【公式】
1. A/Bテスト
2. パターンマッチング
3. トイ・プロブレム
4. ダートマスワークショップ
回答例
(ア) 4. 探索・推論、(イ) 1. Deep Blue、(ウ) 3. トイ・プロブレム ですね。
解説
(ア) 第一次AIブームにおけるAIは、if文でひたすら条件分岐させるプログラムや簡単な数値演算からなるプログラムのイメージを持てば良いと思います(他にもあったかとは思いますが)。他の選択肢の、「知識表現」や「表現学習」、「機械学習」は、第一次AIブームよりも後の高度なアルゴリズムです。
(イ) IBMのチェスAIと言えばDeep Blueです。当時一般ニュースでも話題となりました。名前にDeepという英単語が入っていますが、deep learningは使用していません(時代的に)。BonkrasやPonanzaはコンピュータ将棋のAIですね。
(ウ) ルールや設定が決まりきった簡単な問題をトイ(おもちゃ)プロブレムと呼びます。A/Bテストは機械学習とは直接は関係ないwebサービスの検証手法のことで、パターンマッチングは情報工学におけるアルゴリズムの大枠の名前です。ダートマスワークショップは、workshopというかは微妙ですが、人工知能の学術研究で重要となったダートマス会議のことかと思います。この問題は消去法でできると思います。
人工知能をめぐる動向 2問目
Q. 国際的な画像認識コンペティション“ILSVRC2012”について、正しいものをすべて選べ。
1. 画像認識は、2017年現在でディープラーニングが最も高い精度を実現できるタスクである。
G検定の例題 – 一般社団法人日本ディープラーニング協会【公式】
2. ImageNetとは、手書き文字認識のためのデータセットである。
3. 優勝チームはトロント大学のジェフリー・ヒントン教授率いるSuperVisionである。
4. このコンペティションであげられた成果は、「人工知能研究50年来のブレイク・スルー」と称された。
回答例
1. 3. 4. ですね。
解説
1.はその通りです。ディープラーニングを上回る画像認識手法は2017年どころか今(2021年)もありません。
2. 手書き文字認識のデータセットはmnistです。コンペティションILSVRC2012では、ImageNetと呼ばれる云千万枚、数万クラスの膨大なデータセットから選ばれた、約100万枚1000クラスのデータセットでの画像分類精度が競われました。画像の内容は動物や乗り物などです。
現在も論文などでベンチマークに使用される”ImageNet”は、このコンペティションで使用されたデータセットのことを指すことが多いです。ILSVRC2012データセットとも呼ばれます。単にImageNetと言った場合に、どちらのことを指しているのかは文脈で判断する必要があります。
3. トロント大のヒントン教授によるSuperVisionが、ILSVRC2012でダントツ1位となりました。この成果がディープラーニングのブレークスルーでよく話題になります。今後も歴史イベントとして記憶されるでしょう。
4. 「人工知能研究50年来のブレイク・スルー」という主観的な表現の真偽を問う問題で、科学技術の知識を問う問題としては微妙ではありますが、東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授による発言がこの問題の由来だと思います。
G検定の例題:人工知能分野の問題(2問)
「人工知能分野の問題」の2問を解きます。
人工知能分野の問題 1問目
Q. 以下に挙げる用語は、第二次AIブームが起こった際に取り上げられた問題である。それぞれの問題の説明としてふさわしいものをそれぞれ1つずつ選びなさい。
(ア)フレーム問題
(イ)シンボルグラウンディング問題1. 人間の持つ膨大な知識を体系化することが難しい。
G検定の例題 – 一般社団法人日本ディープラーニング協会【公式】
2. 膨大な情報のうちから、必要なものだけを選んで考慮することが難しい。
3. 単語などの記号と、それの表す意味を結びつけることが難しい。
4. 膨大な知識を処理するための計算機の開発が難しい。
5. 十分なデータを取るためのインターネットを整備することが難しい。
回答例
(ア) 2.、(イ) 3. ですね。
解説
(ア) フレーム問題とは、AIが現実世界のあらゆる状況に対応して認識や発言をすることは、計算機が有限の処理能力しかもたないことから不可能であるということです。現実に起こり得る状況は無限に考えられることから、計算機の有限の処理能力では対処不可能であり、フレームという有限の枠の中でしかAIは判断できません。
一方で、フレームという枠の中で正確な判断が可能なAIが存在したとしても、今直面する状況がどのフレーム(枠)に該当するのかを判断すること自体が、今直面する状況に無限のケースがある可能性があることから無限の情報処理能力が必要となり、有限の情報処理能力ではフレームの判断が難しいという問題があります。これがフレーム問題というそもそも論です。
無限の中から有限を掬いとっても、掬い取れなかった部分は無限のままです。AIで判断できる領域を増やしても、所詮は有限なのであらゆる無限の状況に対処することは、いつまでたってもできません。実用上は、人間が有限な状況内を作りあげ、その中でAIを動かすことになるのかと思っています。
(イ) シンボルグラウンディング問題とは、AIが動作する計算機では無機質な記号で情報が表現されますが、その記号が現実世界の意味とどう結びつけられるか、どのように結び付ければよいのかという問題です。記号接地問題とも呼ばれます。最近では、AIが本当に意味を理解して多言語翻訳等をしているのか、意味を理解して質問に対する回答を発言しているのかという議論の中で使われることがあります。
人工知能分野の問題 2問目
Q. 「強いAI・弱いAI」に関する説明として適切なものを2つ選べ。
1. 「強いAI」は、エキスパートシステムと呼ばれ、現在でも広く実用されている。
G検定の例題 – 一般社団法人日本ディープラーニング協会【公式】
2. AGI(Artificial General Intelligence: 汎用人工知能)と呼ばれるものは、「強いAI」により近いものである。
3. 本来の意味での「人間のように考えるコンピュータ」が開発されたことが、第3次人工知能ブームのきっかけである。
4. 国際的な画像認識のコンペティションでは、「弱いAI」が人間を超える識別性能を実現している。
回答例
2.、4. ですね。
解説
「強いAI」は、ざっくりとは人間に迫る知能を持ったAIのことです。一方で、「弱いAI」とは、将棋や画像認識など限られた範囲の中で振る舞うことのできるAIのことです。
1. 当然、「強いAI」は現在まだ実用化されていません。エキスパートシステムは、1970年代に発明されたif文の固まりからなる論理で記載されたプログラムのAIです。
2. 汎用人工知能(Artificial General Intelligence; AGI)は、人間のように学習、理解できる人工知能のことです。「強いAI」に比較的近い概念です。
3. 「人間のように考えるコンピュータ」は「強いAI」について言及していますが、2000年代の第3次人工知能ブームではまだ「人間のように考えるコンピュータ」や「強いAI」は開発されていません。また、現在(2021年)も開発されていません。
4. 現在のディープラーニングによるAIは、画像認識や言語翻訳、囲碁等のボードゲームなど、ある限られた範囲の中でしか扱うことができない「弱いAI」です。ただし、その限られた範囲において人間を超える能力を発揮する例が報告されています。
おわりに
日本ディープラーニング協会が認定・試験をしているディープラーニング検定のG検定について、ディープラーニング協会のホームページにあるG検定の例題を4つ解き、解説も記載しました。
間違いなどありましたら、コメント欄などで指摘頂けると助かります。
続きは次の記事で、全4回に渡って解答・解説しています。
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